自閉症と入院-対応のヒント-
はじめに
自閉症は、生まれつきの脳の障害です。決してしつけの問題ではありません。165人に1人がこの障害を持っていると言われています。そして、その60%に知的発達の遅れがあると言われています。自閉症の人は、その特性に合わせた特別な対応により、しばしば劇的な理解を示してくれることがあります。「心が通じる」ということの意味を実感できる瞬間です。もし、自閉症の人たちの対応にいらいらした時、もう一度冷静になって考えてみてください。私たちの伝え方が悪いだけなのかもしれません。彼らに悪気はないのです。ただ、わからないだけなのです。私たちの一方的な健常者文化を押し付けていませんか?
ここでは自閉症の人が、けがや病気で入院して来た時にどのような点に注意を払うかを考えていきます。自閉症と言っても幅が広いので、最終的には一人一人のニーズにどの程度応えられるかにかかっています。本人の意向を最大限に尊重し、保護者の方と十分に話し合ってください。また、このような話し合いが気軽にできる雰囲気も大事です。この「対応のヒント」は、参考としてまたはこのような話し合いを円滑に進めるためにお使いください。
T、自閉症とは(@−Cがそろうことが条件。・は、行動の例)
@相互的な対人交流が困難
・視線、表情、姿勢、身振りなどを、人とのやり取りを調整するためにうまく使えない。
・友人関係を(発達レベルに見合った形で)作るのが苦手。
・喜び、興味、達成感を人と共有することが少ない。
・人との間に自然で適切な距離がとれない。
・場の雰囲気や言葉のニュアンス、暗黙のルールが読めない。
Aコミュニケーションの障害
・話し言葉の発達の遅れ(身振りで補おうとしない)。
・会話を始めたり、続けたりすることが難しい。
・同じ言葉を繰り返し言う、独特な言葉の使い方をする。
・(発達水準にあった)ふり遊び、真似遊びができない。
・一方的に話す。
B興味や行動の幅が狭く、反復的で常同的である
・常同的で反復的な興味に没頭したり、決まった行動や儀式にこだわる。
・急な変化に適応しづらい。
・手の平を広げて振るなど奇妙な常同反復的な運動や姿勢をする。
・物の部分や、機能とは関係のない要素にこだわる。
C3歳以前に発症
U、入院生活で問題となりうる特性(どういう特性を持っているかは一人一人違います)
自閉症の人は、以下のような特性により非常に混乱した不安な世界に住んでいると言えます。また、これらの特性は、慣れない環境などのストレス下では増強されるものです。ただでさえ不安な入院生活ですが、自閉症の人たちにとってそれは数倍恐ろしい体験であるかもしれません。その不安をやわらげられるか否かは、対応する人の理解と工夫と努力にかかっています。言葉や文化の違う異国の地で独り入院してしまったらあなたはどんな気持ちになりますか?
@感覚過敏
・小さな音でも非常に大きく聞こえる。急な音に非常にびっくりする。
・特定の感触をものすごく苦痛に感じる。痛みに敏感。
・特定のにおいを苦痛に感じる。
・極端な偏食。
・特定の音を聞いたり、特定のものを見たりすることに恐怖を感じる。
・いろいろな音や光や映像が洪水のように流れ込んでくる。
A自由な時間を過ごすことが困難
・何をしていいかわからなくていらいらする。
Bいつもの生活パターンを変えることが困難
・物事をやる時間・場所・順番をかたくなに守っている。
・急な環境の変化や予定の変更を受け入れられない。
・特定の物がないと落ち着かない。
C予測が困難
・次に何が起こるかの見通しが持てない。
・今やっていることがいつ終わるかわからない。
D言葉で表現することが困難
・要求があってもなかなか言い出せない。「いや」と言えない。
・こちらの質問になかなか答えられない。
・見当はずれな言葉が出てしまう。
E聞いて理解することが困難
・言葉による指示が通じない。
・言葉による説明を理解できない。
Fあいまいなことや抽象的なこと、比喩、冗談、皮肉を理解することが困難
・「ちゃんと」「もうすぐ」「そのうち」「ここ」「そこ」「あそこ」などの言い方が理解できない。
・慣用表現やことわざ、慰めの言葉かけなどを字義どおりに解釈してしまう。
・目上の人など相手の立場によって言い方を使い分けることができない。
GExposure(さらされること)不安
・自分の欲求を実現することに不安を感じ、なかなかやりたいことができない。
・自分の欲求と正反対の行動をとってしまう。
V、特性に応じた工夫((@−GはUに対応)
@感覚過敏
・問題を引き起こしている刺激(一般の常識では捕らえがたいこともある)を除去する。
・問題を起こしている刺激の無いところに連れて行く。
・カーテン、サングラス、耳栓、帽子などで刺激をシャットアウトする。
A自由な時間を過ごすことが困難
・単純な作業を与える。
・テレビ、ビデオ、ゲーム、本など、その人が興味ある物を常に用意しておく。
Bいつもの生活パターンを変えることが困難
・他の患者さんなどとの利害関係上許される範囲で自閉症の人に合わせる
(こだわりを除去するのは困難。周りの人を説得するほうが簡単。のっぴきならない事態で急に消失することもあるが)。
・こだわっている物を与えることは、治療を円滑にすすめる助けにもなる。
・それをやっても良い場所を明確にする。
・こだわりに付き合うことにより、それをコミュニケーションや遊びの手段とする。
・変化は徐々にして行ったり、ワンクッション置いて変化させたり、変更の前に予告を入れる。
C予測が困難
・スケジュール表などで動作の手順を明示して一つずつ順番にこなせば終わるようにする。
・時計やタイマーで終わりの時間を明示する。
・これからやる治療のビデオ、写真、絵、器具、場所を予め見せる。
(目で見てわかるようにすることで劇的に理解がよくなることが多い。)
D言葉で表現することが困難
・絵カードや具体物や写真を指差してもらう。
・適切な言葉が出てくるまで待つ(一方的なこちらのペースで話さない)。
・言葉の裏に隠れている感情を推察する。
・何か要求がありそうならこちらから聞いてみる。
E聞いて理解することが困難
・簡単な文字や絵または具体物や写真で示す。
・ゆっくり落ち着いたトーンで短い言葉で明瞭に話す。
・次々に要求しないで一つずつ要求する。
・うるさがられない程度に何度も言ってみる。
・遅れて理解することもあるので待ってみる。
・気を逸らしている余計な刺激を除去する
Eあいまいなことや抽象的なこと、比喩、冗談、皮肉を理解することが困難
・具体的に言う。例…「ベッドの上に横になる」「3時になったら」「上から3番目」
・誤解されるような多義的または暗示的な表現は避ける
GExposure(さらされること)不安
・他のことにかこつけて、自分の欲求でないように思わせる。
・こちらからそれとなく促がす。または、動作を真似させる。
補足1:パニックへの対応
もし、過剰なストレスによってパニック(自分では制御不能の荒れた状態)を起こしてしまったら、本人及び周りへの安全に配慮しつつ、原因と思われる物を取り除き、できるだけ静かな刺激の少ない環境の中で本人の気分が落ち着くまで見守りましょう。また、一定のリズムや本人が好きな物を与えることによって落ち着く時もあります。
補足2:対人関係の持ち方について
自閉症と一口に言っても、人への接触の仕方はさまざまです。相手によっても違いますし、発達段階によっても異なってきます。対人関係を避ける人、受け身でされるがままになってしまう人、積極的に人に近づくがそのやり方が奇妙な人…。ただ、その対人関係の持ち方が自閉症の人たちの気持ちを直接反映しているわけではないということだけは念頭に置いておいてください。人を避けるからと言って人が嫌いなわけではありませんし、されるがままにされているからと言ってその行為に心を許しているわけではないと言うことです。自閉症の人たちは、表現することがとても苦手で、時には誤解を与える表現の仕方をするかもしれません。だから、行動の裏側にあるものを十分に想像してみてください。
終わりに
ここに書いたことは、自閉症の人が抱える問題の一部です。あくまでも、病院という空間で人生の中のごくごく短い期間を過ごす上での思いつく注意点についてまとめたつもりです。入院生活は、私たちにとっても自閉症の人たちにとっても人生における結構大きな出来事となるでしょう。自閉症には、タイムスリップ現象というものを示す人がいます。過去の記憶が今その時を生きているかのように突然蘇ってくる現象です。この種の記憶は、ほとんどが過去の嫌な時のものだと言われています。もし、病院での対応がこのようなタイムスリップ現象を引き起こすことになったら、ひいてはそれが病院嫌いにとどまらず人間全般に対する恐怖につながったなら、それは非常に不幸なことです。しかし、そのことが私たちの理解と工夫と努力で防げるなら、是非実行に移すべきです。
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文責:大阪大学大学院医学系研究科精神医学 中鉢貴行